長野県>北アルプス地域>
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信州の北西端にして、新潟との県境に近い小谷村。
小谷村の歴史と風土は、如何に続いていたのか。
訪問日:2025/08/31
松本を北西に離れ山岳リゾートの白馬を経て糸魚川に至るローカル線、大糸線。
その途中、白馬を過ぎて急激に人気(ひとけ)がなくなる長野の県北にある、山深い村。
8月末のこの日、とあるイベントの最終日でもあったために乗り鉄ついでに参加してきた。
それがこちら。
大糸線南小谷駅で下車したきっぷを見せると、無料で見学できるというもの。
たったそれだけのために南小谷まで行くのもアレだと思いつつ、大糸線の下見も兼ねて訪問してみた。
当然、白馬から先で乗車人数は激減。残った乗客は大糸線で糸魚川まで抜ける猛者が多かった。
というより、南小谷駅周辺に笑えるほど「なにもない」ので仕方ないのだ。
※付近のコンビニもガソリンスタンドも土日休業、駅前の土産屋はなぜか休業中だった。
営業中の施設がこの郷土館と、隣接する「おたり名産館」、リサイクルショップ、そして役場内の図書館程度だった。
「サンテインおたり」や「道の駅 おたり」まで行こうにも、乗り継ぎの不便さを取るか、熊被害のリスクを取るかの択である。
なので潔くこの郷土館までで今回は引き返すことにした。
中の展示は割とよくある、田舎町の郷土資料館といった感じだ。
しかしながら、ひときわ目を引くのがこちら。明治末期、旧・南小谷村 稗田(ひえだ)山の崩壊で、たった一晩のうちに消えた来馬(くるま)集落のジオラマ模型である。
かつて「塩の道」の重要な宿駅として栄え、『嫁にやるなら来馬の里へ』と歌い伝えられたとも言われている集落。
地域の中心として役場、学校、郵便局が置かれていた賑わいの場。
それが、たった一晩のうちにこの世から消え失せたのだ。
日本という国は、どこに住まおうが『終わりなき、自然災害との戦い』を強いられる。
そう実感させられる、あまりにも素朴でありながら、あまりにも悲惨な展示だと思う。
それから100年以上経った今、土木技術の進歩によりハード面での対策はかつてないほど「技術的には」進んだように見える。
しかし、その土木技術の発展は外野の人々にどれほど理解されているのだろうか。
そして、このような言い伝えから、どれほどの人々が「土地の特性」を学んだだろうか。
旧・建設省の松本砂防工事事務所による解説パネルを読んで、そう考えずにはいられなかった。
明治初期に建てられた役場の建物を利用した資料館。
よくよく目を凝らすと、建物のほうがむしろ特徴的である。
茅葺き屋根の屋根裏を見上げることができるのも、接ぎ木を舐め回すようにじっくりと観察できるのも、ここならではの良さかもしれない。
しかし館内は暗い。
それだけならまだしも、少々気になる点があり…
なんと一部の展示物にクモの巣が張ってしまっている。
ただでさえ大自然に囲まれた小谷村で、密閉性の低い明治期の木造建築、しかも展示物にガラスケースがないといえど…
ちょっとこれは貴重な史料保全の観点からも、大問題だろう。
人手不足、高齢化、財政難、認知度不足…要因は色々あるが、何か介入しようにも「触るに触れない」のも厳しい。
おそらくもう作られないであろう貴重な文化史を未来に遺す場として、今一度考えるべきだろうが…。
解読されていない謎の文字が刻まれた石碑…の写真である。
ただでさえ珍しい「融通念仏碑」だが、
そこに更に謎の文字が刻まれている。
ハングルかと思って自分なりに調べてみたのが→の図。
※不自然な位置は謎のパーツによる影響としている
どうもハングルの字母に対応できない文字が紛れている。
※傍点の位置もおかしい
年代的にはハングルでもおかしくはないし、ハングルとして紹介しているサイトもあるが…
それにしても、あまりにも情報が少なすぎる。
場所も南小谷駅から遠く、行く用意もないのでは、どうしようもない。
レアリティ 6点/10
→文化財で言えば他が強すぎる。だが建物目当てなら良いかも。
学習内容 7点/10
→中信最北の村での暮らしを知るには良い。が、前提として塩の道を知るのが先か。
体験内容 6点/10
→ぼろ織り体験ができるのであれば悪くない。ただそれを抜きにすると正直微妙。
アクセス 4点/10
→白馬からも糸魚川からも本数が少なく、理由がない限りマイカー推奨。道中の補給も少ないので要注意。
コスパ 6点/10
→イベント時以外は大人300円。展示品の状態も怪しいのが微妙。
混雑補正 1点/10 (高いほど減点)
→そもそも南小谷駅で降りる人が少なすぎる。安心して見学できる。
B級オススメ :塩の道文化の道中、複合的に学べるが予習は必須。道中探訪の補完にどうぞ。
塩の道、中信最北、農村暮らし、民間信仰…その諸々を詰め込んだ小さな郷土館。
各地に点在する、より大きな博物館であればそれぞれを詳細に知ることができるが、こちらはこの地域に特化したことで「総集編的な資料館」になっているのだろう。
今回は紹介しなかったものに「化石」や「鉱物」の展示もあったことを踏まえると、小規模ながら様々なものが入り混じったエリアであることが伺える。
そして、この地域が土砂災害の多発地域であることも。
展示内容としてはそこそこ充実していたが、クモの巣が張る程度の状態では今後が心配になるところでもある。
また、展示とは無関係ではあるが、近くに営業中の店が非常に少ない。
そしてそもそものアクセスもかなり悪く、塩の道に沿う形でR147/148と2本の国道が通る。
その国道でスルーしてしまう可能性も高く、狙わないとたどり着けないだろう。
と、考えてみたところで気がつく。
「ここに来るような人々は最初から狙って来るから同じだろう」と。
そうすると仕方ないことではある。
白馬のリゾートと糸魚川のヒスイに挟まれた場所ではあるが、見つけてもらえればOK…
そんなふうに思いながら、この場所を後にした。
2025/09/15 SETSUKA GSX
近くを飛び回っていたカラスアゲハ→