2023/09/26 現地訪問
2025/03/09 記事作成
この記事は2023年に公開したブログのリメイク版です。
(元記事は閉鎖済み)
暦の上では秋という割にクソ暑い9月後半、管理人はこのスポットを訪れるためだけに新潟へ旅行していた。
新潟といえば雪・米・酒が有名ではあるが、佐渡の金山や糸魚川のヒスイ、長岡の天然ガス、……と、陸上部だけでもそれなりの地下資源が実用的な量で採掘できる/できた、珍しい立地である。
そんな中でも、「日本で石油が採れる場所」ということで、秋葉区金津を訪問することとした。
「花とみどりと石油の里」をキャッチフレーズに掲げる秋葉区(特に旧・新津市内)では、日常生活や文化にまで石油が密着していることは、事前の予習で知ってはいたのだが…。
その「新津の石油文化」を知るためには、地元の博物館を訪れるのが最も良いと考えたために行ってみた。
蔵をイメージした外観の、2階建ての小さく見える博物館である。
旧・新津市時代の「石油文化遺産施設」の中心として、中を見学してみよう。
有り難いことに、入場は無料である。
周囲は小さな集落があるが、かつてはオイルマネーで栄えた一帯でもある。地下資源との栄枯盛衰とはこのことか。
ちなみに、ノボリに描かれているキャラクターは旧・新津市→秋葉区のイメージキャラクター「ゆうたくん」である。
入館後すぐに、2階への階段と、ガラス張りの展示ロビー、そして各種の展示室がお出迎え。
2階は訪問当時「企画展開催時のみ開放」だったのだが、
つい最近になって通常時も開放されるようになった模様。
そのため2階については一切不明。
1階の展示フロアは大雑把に「歴史資料室」「映像ホール」「上総掘り櫓の模型展示」に分かれている。
未だに秋葉区内では石油が湧出しており、時々住民から厄介がられている。真っ黒な重質油であり、精製にも向かないので無理もない。
だが一部は何故か国立科学博物館(東京都台東区)で販売されている。秋葉区産だからここで販売してほしいが…。
「地域活性化に役立つ近代化産業遺産」「日本の地質百選」にも認定された、新津油田跡。
それだけ日本の中でも珍しい地質・自然環境であり、新津市の経済界に大きく貢献してきたことを物語る。
何しろ新津油田は1996年まで採掘を続けていたこともあり、それまで新津を繁栄させてきたことを考えると、この展示のためだけに新津を訪れる価値は十分にある。
他にも地質的に気になる点が新潟県内に多数あるが、それはさておき。
展示フロアの見学へと移る。
1988年に「石油の世界館」が開館してから2年後には、当時の共同石油株式会社(現・ENEOS)から寄贈されたタンカー模型がある。
他にも共同石油から寄贈されたものは数多くあるのだが、今の日本が石油を海外に頼らざるを得ないことを考えると、重要な展示の一つと言えよう。
なおこの先、「石油の世界館」についての展示は一部抜粋しての紹介となる。
流石に現地を訪れて体感してほしいという管理人的なエゴと、マナー上の問題だ。
上総(かずさ)掘りの櫓の模型展示。
建物1階をはみ出すような大きさの模型は、縮小されていると言えど、そのスケールを実感させてくれる。
その櫓が現役時代のまま遺されている場所がすぐ近くに多数あるが、それは別ページで紹介する。
上総国(今の千葉県、君津地域)で生まれた「上総掘り」が地下水ではなく、越後で石油の採掘に用いられたのだ。
安価に組み立てることができ、容易に深く掘れることから、後述するポンピングパワーが導入されるまで、ここ新津油田でも数多く使われた。
上総掘りの体験コーナーはないが、これについては昔の油田採掘従事者の道具が展示されている。
油田採掘に関する道具の展示は後から見るとして、まずは
「石油の歴史」に関する展示へ向かう。
←1階からは日本の石油王こと中野貫一の邸宅
「中野邸記念館」が見える。
紅葉シーズンには開放されるそうだ。
この地球儀は、世界の石油・天然ガスの産地や輸送ルートを埋め込みLEDで表現している。いかにも平成初期の作り。
日本に向かうラインが何本もあり、当時から日本が化石燃料を大量に輸入していたことや、石油・ガスが日本国内でも、特に東日本※ でしか採れないことを示している。
※糸魚川静岡構造線を基準にした
しかし近年(平成後半~令和)にかけては新たな採掘方法や資源の発見もなされており、その実態が反映されているかと言われると少し怪しい。
良くも悪くも物理オブジェクトの悪さが露呈した形である。
石油に関するパネル展示から一部を抜粋。
石油が原料となる日用品は数多く存在しており、非木材・非金属の様々な分野で石油を原料としている。
このことは精製された石油が様々な炭化水素の混合物であり、その反応性によって作られるものが数多く存在すると考えると理解しやすいだろう。目安としては高校理系レベル。
可採年数については、需要の減少や新手法・新資源の発見を踏まえた上でパネルを作り直してほしいとは思う。
何せ40年近く前の情報であり、このパネルの通りならとっくに石油が地球上から無くなっているのだが…。
※2023年時点での可採年数は53.5年。
それだけ石油を求めて様々な技術開発や油井発見が行われてきたと考えることもできる。
この新津油田で採れる石油は基本的に重質油であり、石油の中でも非常に重く、粘性も高い。更に粘性が高く、半固体状のアスファルトピッチも採れることから、新津油田で燃料向けの石油を採るのは厳しいのかもしれない。
しかし(毒性を考えなければ)これらの石油を燃料以外の日用品に用いることも可能であり、防水塗装のために使われた事例もある。そしてこのような展示は歴史資料室にもある。
近くの一ノ沢周辺では、今も石油が染み出している露頭を間近で観察することができる。
日本の油田分布図。
これもやはり情報が古いままである。が、大雑把に言えば「西日本では全く採れない」ことが強調されている。
事実、この分布図はこれが日本全体を示している。(糸静線以西&関東以南の皆さん、ごめんなさい)
誇張抜きに糸静線より西側では全く石油が採れず、東日本でも一部を除いて本州日本海側に偏っている。
これら地域は「グリーンタフ地域」と呼ばれ、激しい火山活動の後、日本列島の脊梁部(奥羽山脈)の隆起中もなお海盆を形成していたために有機物が堆積し、できた石油が褶曲などのトラップで集められたと考えられている。
なおこの図に乗らない範囲では長野市(浅川油田)、長野県飯山市、静岡県牧之原市西部(相良油田)で少し採れた程度である。
…のだが、相良油田の石油は精製無しにガソリン車が走るほどの軽質油らしい。
石油の質がどのように決まるのか、また調べてみたいと思うところではある。
映像ホールの中心には新津油田のジオラマがあり、その周囲には古道具の展示がある。
古道具は何らかの形で石油に関わるものが多く、石油を防水防腐の目的で使ったものや、石油採掘のために必要な道具などが数多く展示されている。
そうした中でAAJ(Aramco Asia Japan株式会社)による寄付を受けてリニューアルされた紹介・解説動画を視聴した。
解説動画については記録を取っていないので悪しからず。
管理人が一人で模型を動かしながら撮影した動画。
ポンピングパワーは複数の油井を同時に動かし、石油を汲み上げることができた画期的な設備である。
中央の平ベルト車が回転することにより上下の偏心輪(内側)が回転する。
しかし外側の偏心輪は一体化しておらず、この過程で水平往復運動へと変換される。ちょうどこれらを対称な位置に配置することで、少ない力でも多くの機械を動かし続けることができたのだ。
更に継転機を経由することにより、動かせる油井を更に増やした。
掘り出すだけなら比較的省エネでできたことがよくわかる。
なお、これらのポンピングパワーや継転機、油井櫓の一部は今も新津丘陵に現存しており、菩提寺(ぼだいじ)山の散策コースでも見ることができる。
とは言え熊やスズメバチには十分注意し、可能なら複数人で行動することが望ましい。
レアリティ 8点/10
→国内唯一の「石油産業にもスポットを当てた博物館」であり、産油地自体が希少。
学習内容 9点/10
→新潟県内を中心に日本の地質や構造、石油の利活用・文化まで幅広く学べる。
正直、新潟市の旅行はこれが目当てでも十分成立するレベル。
体験内容 7点/10
→手を動かして体験できるのはやや少ない。学習した内容を如何に日常的に振り返れるかがキモ。
意外性 8点/10
→「日本で石油が採れない」というのが半分間違っていることを知る人はそこまで多くない。
産業レベルは厳しいが、産油自体はあることを知る分には非常に有意義。
アクセス 5点/10
→駅から遠く、バスも本数が少ない。自動車がないと厳しい立地だが、慣れないと自動車でも辛い。
コスパ 9点/10
→無料でここまで見学できるのは強み。ただ新潟駅から辿り着くまでが意外と大変でそこはマイナス。
混雑補正 1点/10 (高いほど減点)
→そもそも存在があまり知られていない。訪問者に対してキャパシティも余裕あり。
S級オススメ : 新津の歴史に欠かせぬ1ピース。行くか、行かぬかで新潟のイメージが大きく変わる。
何と言っても新潟のイメージに「新たな一コマを付け足す」遺産群であることは間違いない。
その中心的な博物館というだけあって、また、「石油」という、普段から消費している割に意識を向けることも少ない、有限な地下資源において、「実際に採掘する」という状況から考えることは、当事者目線で石油を考える際に「消費者」だけでなく、「生産者」や「住民」の視点もいくらか与えてくれる。
石油採掘をやめた町の行く末や、石油採掘そのものの困難さ、可採年数や世界情勢との兼ね合い……
限りある資源を大切にするだけではない、「社会に生きる人」を考える上でも、いくらか重要なパーツである。
それをこのように資料として、無償で展示してくれているのだから、有り難い限りだ。
惜しむらくは、展示内容の古さ。
少なくとも可採年数や採掘箇所に関しては、世界情勢の変動を踏まえた更新があれば…という話である。
現在オイルマネーで栄えているAAJから見れば新津(油田)は先輩であり、石油採掘が無くなった後も、文化は残せるということを、訪問者の一人として、今後も伝えていきたい。
2025/03/09 SETSUKA GSX
新潟市 石油の世界館
住所:956-0845
新潟市秋葉区 金津(かなづ) 1172番地1
料金:無料
開館時間: 9時~17時(最終入館:16時30分)
毎週水曜日休館、水曜日が祝日の場合は翌日休館。5月・11月は無休。
年末年始(12/28~01/03)は休館。
新潟県道r41/主要地方道 白根安田線を矢代田から東(五泉方面)に向かって左側。
駐車場は「金津」交差点を右に曲がった、「里山ビジターセンター」を使うのが便利。
バスで行く場合は「秋葉区 区バス」の「金津・石油の里前」
または泉観光バス「新津駅-金津線」の「金津」で下車後徒歩すぐ。
電車で行く場合は信越本線「矢代田」下車徒歩30分。
新津を過ぎると本数が激減(1本/h)する上、付近に熊出没情報が多いため非推奨。
冬であっても、歩道がない区間もあり、あまりオススメできない。
石油の世界館 新潟市秋葉区(最終更新:2022/02/22)
アラムコ・アジア・ジャパン、「石油の世界館」リニューアルオープンを祝福|新潟県、秋葉区, 2020年11月12日|アラムコ・ジャパン(記事公開:2020/11/12)
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2023年版 新潟県民手帳[新潟県統計協会 発行]
見学案内書 新津丘陵の地質と石油 [石油の世界館友の会 発行]